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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9118号 判決

判   決

東京都練馬区南町三丁目五、四二五番地

原告

大塚暢男

右訴訟代理人弁護士

沼生三

同都墨田区寺島町一丁目一七一番地

被告

興国工業株式会社

右代表者代表取締役

杉山とく

右訴訟代理人弁護士

大島英一

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

被告は、原告に対し、告告の株式(一株の金額一〇〇円)一二、〇〇〇株の株券を作成交付せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

三、請求の原因

(一)被告は発行済株式数八万株の株式会社である。

(二)原告は被告会社の一二、〇〇〇株の株主である。

理由事実

(1)原告は、昭和三〇年九月、訴外杉山保象から、被告会社の株式三、〇〇〇株を譲受けた。

(2)a、右株式の譲渡は、株券発行前になされたものである。

b、しかし、右譲渡は、譲渡前の最後の新株発行の日である昭和二三年六月一日以後通常株券を発行し得る合理的期間を経過した後になされたものである。

c、右の譲渡による株式については、株主名簿においても、昭和三〇年九月に原告名義に書替えられている。

(3)その後、昭和三一年二月一三日の再評価積立金の資本組入れによる新株発行の際五、八五〇株、同年五月三〇日の準備金の資本組入による新株発行の際三、一五〇株の各無償増資新株の株主となつた結果、原告の株式数は、一二、〇〇〇株になつた。

四、請求原因に対する認否

(一)請求原因(一)の事実は認める。

(二)請求原因(二)の事実は否認する。

理由事実中(1)の事実は否認する。(2)abcの事実を認める。(3)の事実のうち、原告主張の新株発行がその主張のとおりのものであることを認め、その余を否認する。

五、立証≪省略≫

理由

一、原告が被告会社の株式三〇〇〇株を譲受けたと主張する昭和三〇年九月当時被告会社において未だ株券が発行せられていなかつたことは当事者間に争がない。してみると、原告がその主張のように杉山保象からその主張のような方法で右三〇〇〇株を譲受けたとしても、右譲受けについては譲渡当事者間において債権的な効力が認められることは格別とし、被告会社との関係において原告がこれにより被告会社の株主になつたものとなしえないことは商法第二〇四条第二項の明定するところである。

二、この点に関し、原告は本件譲渡は会社成立後いわゆる通常株券を発行しうる合理的期間経過後になされたものであるから右譲渡は会社に対して効力を有する旨主張するが、既に、昭和三三年一〇月二四日最高裁判所の判決も明示するように、当裁判所はたとえ原告主張のような時期に譲渡があつたとしても商法第二〇四条第二項は依然としてその適用があるものと解する。

三、なおまた、本件においては、右譲渡の後株主名簿上原告主張のとおり名義書替がされたことについては当事者間に争がないのであり(但し、譲渡の事実には争がある)、かかる特殊の事情ある場合については特に商法第二〇四第二項の適用を譲受人保護のため緩和すべしという見解も一応尤もなこととして考えられるのであるが、元来この名義書換という制度は真実の株主が会社に対して株主としての取扱をうけるための対抗要件(商法二〇六条参照)であり、会社側からすれば、株主なりや否の調査義務を軽減するための免責的制度であつて、会社に悪意または重大な過失のない限り、書換えられた名義人を株主として取り扱えば、かりにそれが真実の株主でなかつた場合でも会社は免責されるという効力はあるけれども、それ以上の効力は認められていない。故に、無権利者がなんらかの事由により名義人として書換えられたとしても、この書換という事実により無権利者が権利者となり、従来の権利者が権利を喪失することはありえない。かかる株主名簿上の名義書替の本来の効力を考え、且つ、小規模の株式会社にあつては、株券発行前における会社側の株主の承認、名義書換が屡々会社主宰者の恣意専横に流れそれがやがて株主権の帰属についての紛争の要因をしている現下の実情に思いをいたすときは、株券発行前の株式譲渡につき、これに照応する名義書換がなされている場合でもなお商法第二〇四条第二項はこれを緩和して解釈すべきではなく依然その文言どおりに解釈すべきものと思料する。

四、なお、原告は、その後、新株発行により九、〇〇〇株の株主となつた旨主張するが、右新株発行が、再評価積立金の資本組入によるもの及び準備金の資本組入によるものであることは当事者間に争がない。

そうすると、株式会社の再評価積立金の資本組入に関する法律第三条第一項及び商法第二九三条の三第二項によれば、再評価積立金の資本組入及び準備金の資本組入による新株発行の場合には、必ず、株主に対し新株が発行されるものであつて、株主以外の第三者に新株の発行がなされることはないのであるから、原告が右各新株発行当時、株主であることを被告会社に対し主張し得なかつたものである以上、右新株発行の結果、新らたに九、〇〇〇株の株主となるべき筈はないといわねばならない。

五、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条適用。

昭和三八年七月一九日

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 伊 藤 秀 郎

裁判官 武 藤 春 光

裁判官 宍 戸 達 徳

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